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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)800号 判決

事実

控訴審の認定した事実。被控訴人岡本福太郎は控訴人尾崎孝太郎より四戸一棟の本件建物を請負代金一、四〇〇、〇〇〇円で建築することを請負い、昭和二八年三月本件建物の建築を竣工させ、双方は同年四月四日右請負代金債務を目的とする準消費貸借契約を締結し、控訴人は被控訴人に対し同年四月から支払済まで毎月末日限り一四、五〇〇円ずつ割賦弁済するべく、その担保のため控訴人は本件建物に順位第一審の抵当権を設定し、控訴人が一回でも右割賦金の支払を怠つたときは期限の利益を失い残額債務の弁済に代えて本件建物の所有権を被控訴人に移転するべく、被控訴人が本件建物の賃借人より受領した権利金七三〇、〇〇〇円は請負代金を約八年六カ月にわたつて割賦弁済を受ける期間の実質上の利息の前払として被控訴人の所得とする旨約したが、控訴人は合計六七三、二〇〇円を弁済したのみでその余の支払を怠つたので、被控訴人は昭和三二年三月一二日本件建物について代物弁済による所有権移転の本登記をした。

控訴人は右代物弁済の効力を争つた。

理由

控訴人は、前示停止条件付代物弁済契約は控訴人の無知に乗じて締結され、残債務額の限度について定がなく、右債務の担保としては前示抵当権で十分であつて高齢の控訴人にとつて過酷であるのみならず、被控訴人は権利金七三〇、〇〇〇円を受け取つておりながらこれを隠しており、かつ不法の利益を得ようとするものであるから、右代物弁済の予約は公序良俗に反し無効であると主張するけれども、代物弁済予約が控訴人の無知に乗じてなされた旨の主張を肯認するに足る資料はない。甲第二号証によると、双方は代物弁済契約は、控訴人が割賦弁済を怠つたときの残額債務につき成立する旨約したことが認められ、その金額は特定し得べきものであるが、その残額債務の最低限度額ないし特定の金額を双方が定めたことを肯認し得る資料はなく、他方前示停止条件付代物弁済契約は、前示のように抵当権設定契約とともになされているから、これを代物弁済の予約と解するのを相当とする(最高裁判所昭和二六(オ)第五六〇号昭和二八年一一月一二日第一小法廷判決・民集七巻一一号一二〇〇ページ)ところ、割賦金を支払つたその債務残額が著しく少く、代物弁済の予約の完結が債務者にあまりに過酷なときに公序良俗に反して無効となる場合もあるであろうけれども、代物弁済の成立すべき残債務の最低限度額または特定の額について約定がないことだけでは、前示代物弁済の予約が公序良俗に反するものということはできない。たとえ抵当権の実行によつてその債権を満足を得る場合であつても、債権者は特段の事由の認められないかぎり右抵当不動産につきなされた代物弁済予約の完結権を選択行使し得るのであつて、債務者が高齢であるというだけでは予約完結権を行使することをもつて違法ということはできない。

被控訴人は、控訴人が前示のように昭和三二年一月分以後の割賦金の支払を怠り、停止条件付代物弁済契約の条件が成就し代物弁済契約が成立したと主張するけれども、前に説明したように本件停止条件付代物弁済契約は、抵当権設定契約とともになされており、代物弁済の予約と解すべきであるから、被控訴人の右主張は採用できない。

しかしながら、控訴人は本件建物について代物弁済契約が成立していないことを理由として本件建物につきなされた代物弁済による所有権移転登記の抹消登記手続を求める本訴を提起し、これに対し被控訴人は本件建物所有権を有効に取得したこと等を主張して応訴し、昭和三二年五月七日の原審口頭弁論期日にその旨記載された答弁書を陳述していることは記録上明らかである。この事実と弁論の全趣旨とによると、被控訴人は右期日において前示代物弁済の予約完結の意思表示をし、かつこれを主張しているものと認めるのが相当である。すると、前示代物弁済の予約は同日完結されて代物弁済契約が成立し、被控訴人はこれによつて本件建物所有権を取得したものというべきである。

ところで、昭和三二年二月二八日代物弁済を登記原因とする前示所有権移転登記は、被訴人が前示認定のように本件建物を取得した同年五月七日より前になされているものであることは、前示争のないその登記受付日が同年三月一二日であることによつて明らかであるけれども、およそ登記がなされたときに登記原因として表示された権利関係が存在しない場合にも、後にこれを生じたときには、その生じた時以後、その登記は効力を生ずるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和二二年(オ)第三三号昭和二三年七月二〇日第三小法廷判決・民集二巻九号二〇五ページ)。それゆえ、前示所有権移転登記は、前示認定のように被控訴人が昭和三二年五月七日本件建物を取得した時以後有効となつたものといわざるを得ない。

してみると、本件建物につきなされた控訴人主張の抵当権設定登記、停止条件付所有権移転請求権保全の仮登記及び所有権移転登記はいずれも有効であつて、控訴人の本訴請求は全部理由がなく棄却せざるを得ない。

そうすると、原判決のうち控訴人の本件建物につきなされた所有権移転登記の抹消登記請求を認容した部分は失当。

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